占いの起源について
果たして占いというわたしたちの世界の導き手はいつ生まれたのか、そのことを知るためには、人類の歴史の文字の生まれる以前にまで遡ってみる必要があります。
なぜならわたしたちは、文字の生まれる以前から夢を見ていたからです。
狩猟のための道具のつくり方や、火の点け方などしか発明していない、まだ幼い文明を生きていた昔の人類にとって夢の世界とは、ときに実生活とは大きくかけ離れている、神聖で読み解き難いものでした。
人類の実践的な営みのなかにおいて、主に読み解き難いものとして重要な位置を占め続け、恐れや不安などの感情をもたらすものはいまもむかしも変わらず、「未来がどうなるのか分からない」ということです。
そんな読み解き難い未来を読み解くための道具として、人類は見た夢について、雨に濡れた松明が消えるのとおなじような、秩序(論理)を与えようとしました。
なぜならば、夢はつねひごろはわたしたちの思い出を補完するために誰かの存在や生活のなかにある道具を呼び出す、記憶の保管庫のような装置でしかないと思われがちですが、ときおり、まったく身に覚えのない景色や未来の光景をわたしたちに予言することがあり、にも関わらず、未来に絶対的な秩序を与えること(世界のすべてが思うがままに進んで行くこと)は不可能だからです。
秩序を与えるとは、たとえば種に水をやれば稲穂が実る、木を激しくこすると火を作り出せる、などの、人類が実践的な営みのなかで身に着けた知恵を集積し、そこにひとつの論理を与えることで、もう一歩文明を進歩させるための、人類が未来の予測不可能な災害や疫病に対峙するために用意されたつまりはたったひとつの光明でした。
未来に備えて秩序のない夢に秩序を見出そうとすること、つまりは夢占いをすること、人類はそんな好奇心のなかでだけはじめて、ただ生存するために食べて眠り繁殖するだけの世界を抜け出し、なにもかもが新しく謎に満ちた世界があることに気が付くことができたのです。
そこにあったのは星の動き、雷、風の方角、日食、生、死、脱皮、などのあらゆる自然の広大さと、自分たちの築いた文明の非力さでした。
人類は星の星の動きにひとつの秩序を見出し、太陽の沈む回数に秩序を見出し、自分たちの寿命に秩序を見出し、それらひとつひとつの秩序を結び付けながら、夢の無秩序さを解き明かすための道具として用いたのです。
なぜならば、世界のあらゆる吉凶に、因果関係を読み取ろうと務めることだけが、次の吉凶に対峙するためのたった一つの方法だったからです。
人類とは、自然のなかのしるし(星の動き、太陽が永遠に沈む日が来ないこと、骨が燃えないこと、など)と夢のなかのしるし(誰かが蛇に噛まれる、王様が死ぬ、海が割れるなど)を示し合わせる、未来予知のためのひとつの辞典を持つこと。つまりは占うことによって、自らでさまざまを法則を作り出しながら、世界と共生している生命体だと定義しても良いでしょう。
つまりは占いこそが人類の祖先であり人類を生き延びさせた方舟でもあるのです。
そんなふうに人類は、あらゆる自然の法則を、他の動物のような完璧な当事者として生きることではなく、夢や星の動きと照らし合わせながら慎重に観察し、占いながら、そうして発見した新しい世界を広め合いながら、この星と結び付けられたあらたな道具(松明、望遠鏡、レコードプレーヤー、ロケット、スマートフォンなど)を発明することのなかでいまも生きています。
そして動物にもまた、人類が夢というしるしを自然のなかのしるしとつないでいたことと同様に、蜘蛛は糸の振動をしるしにして獲物と葉っぱの微細な違いを見分け、蝙蝠は蝙蝠どうしで発し合う人間の五感には捉えられない音波によって、たがいがたがいにぶつかることを常に回避している。
鯨には鯨の・・・猫には猫の・・・と、そのような動物それぞれの、人間が備えている器官とはまったく異なった器官による、しるしとしるしのつなぎ方があり、世界の占い方があり、それらを十全に用いることによってのみ、世界と共に成り立ちながら、他の生体たちと、人類と星との関係のように関係し合うことで、時には形を変えながら生き延びています。
そういう意味では、あらゆる蜘蛛には蜘蛛の占い師が宿っており、あらゆる蝙蝠には蝙蝠の占い師が宿っていると言ってもいいのかもしれません。
数千年も前のまだ文字すら存在しない時代から、未来を紐とく鍵の辞書を編みながら生き延びてきた人類がいまもなお完璧な未来予知の技術にはまったく到達していないことこそが、まさに読むに値する世界がまだ残されていることと同じ意味であり、そのようないつまでも不確定な世界を生き延びるためには、人類が占いを必要としない時代が訪れることはないでしょう。若しくは、人類が占い師を必要としなくなるのは人類が絶滅するときだけでしょう。
占い師とはそういう意味では、もっともあたらしい職業であり、かつもっとも古い職業であると言えるのかもしれません。
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